「あれだけ頼りになる人だったのに認知症になって周りを困らせてばかりになった」
親世代の話を聞いていると、そのような嘆きの声が多くあがるものです。
認知症、特に重度となってしまうと、残念ながら脳の神経細胞の大部分が死んでしまっているため、物理的な改善に限界があるというものです。
しかしその直前の軽度認知障害(MCI)の段階なら、脳の神経細胞のほとんどが生きており、ただ単に弱っているだけですので、この段階で適切な予防対策をする事によって認知症に進行してしまう事を防止できる可能性大です。
認知症の予備軍といえるこの軽度認知障害(MCI)状態かどうかということを判別する数々のサインを紹介いたします。
認知症予備軍と認知症の境界線
認知症の中で際立って多く、全体の7割を占めるアルツハイマー型認知症だと、認知機能が「軽度」「中等度」「高度」と少しずつ悪化していきます。
アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドβたんぱくという物質が溜まり、茶色いシミのような老人斑(はん)が発生します。
このアミロイドβたんぱくが発生蓄積する過程において、脳の神経細胞が死滅するのです。
軽度のケースでは、物忘れが起こって、日頃の生活において不都合が生じてくるものです。
中等度に差し掛かると、物忘れのみならず、シーズンに応じた衣類を選択できなくなったり、お風呂に入るのを嫌うようになったりします。
たとえお風呂に入ったとしても、体を念入りに洗うということが困難になります。
高度に到達すると、掃除や炊事ができなくなったり、近所ですら迷子に陥ったりしてしまいます。
軽度のアルツハイマー型認知症の一歩前の段階で、軽度認知障害(MCI)という状態が存在します。
この軽度認知障害は、物忘れなどは見受けられますが、毎日の暮らしにおいては問題はありません。
毎日の暮らしにおいて不具合が有るか無いかが、認知症と軽度認知 障害の境界線となっています。
しかし境界線の手前だからといって安心してはいけません。
軽度認知障害の時点でも、とうに脳に相当なアミロイドβたんぱくがたまっています。
アミロイドβたんぱくは、認知症を発症する20年くらい前からじわじわたまり始めるというのが判明しています。
軽度認知障害(MCI)の段階で予防すれば間に合う
日本には、この軽度認知障害の人が約400万人存在すると言われています。
研究によって数値に違いがあるのですが、軽度認知障害の人達の内の5~15%が、1年以内に認知症に進行すると報告されています。
3~5年経過するとおよそ50%が認知症に進行してしまうとのことです。
ただし軽度認知障害の段階でしっかりとその事を認識して、頭を使ったり、運動を行ったりといった対策を実行すれば、認知症の発症を防止できるの可能性も高いのです。
認知症に進行してしまうと冒頭で述べたように、脳の神経細胞の大部分が死滅してしまっているのですが、軽度認知障害の段階ではほとんど死滅していなくて弱ってしまっているだけの状態です。
この段階で最適な予防対策を行うことで、それ以上神経細胞が衰弱することを抑止できる可能性があると言われています。
認知症に陥るのを防ぐおおまかな指標
まずは認知症になりやすい生活習慣を改める必要があります。
高血圧や糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病を持っている人は、認知症が発症する可能性があるので、注意が必要です。
お年寄りの心臓病も認知症に結びつくと考えられます。
喫煙行為も認知症発症の原因のひとつとなります。
これらの事のみならず
- あまり運動しない
- 知的活動を積極的に行わない
- 他者とのコミュニケーションが少ない
というようなライフスタイルの人は、 認知症を引き起こし易いの可能性が高いので、生活習慣の見直しが必要になります。
「こんな事まで?」認知症のサインを見逃さないで
生活習慣を改めたら、後は本人が認知症予備軍の特徴をしっかりと自覚し受け入れて改善するだけです。
軽度認知障害(MCI)は、健常状態と認知症の境目の状態で、本人も周囲の人達も安易には気が付かないのです。
しかしながら入念に観察しているうちに、日常の様々な場面において小さいながらサインがでていますので紹介します。
人と約束して外で会うとき
友達などと約束して外で会う時の行動にも、認知症のサインが見受けられます。
- 家から出るのが面倒くさくなった
- ファッションに無頓着になった
- 約束したことをすっかり忘れ去って慌てふためいて家を出ることが増えた
といったサインが見られます。
外出するのがわずらわしくなるという事は、意欲の低下を表しています。
物忘れが激しい事を外出先で見られることで恥をかきたくないという深層心理も働いています。
お洒落に気を使っていた人が服装に気を遣わなくなってくるのも、軽度認知障害の重要なサインです。
約束したのをすっかり忘れ去って、電話がかかってから急いで飛び出すという行為は、約束そのものは忘れていないという事なので、これが”軽度”認知障害といわれるゆえんでしょう。
料理
日々の調理においても「こんな事がサインなの?」といったものが潜んでいます。
- 鍋を焦がすようになった
- 味つけが変わった
- 本格的な料理を作らなくなった
お鍋を焦げつかせてしまうのは、調理をしていることを忘れてしまうためです。
これは誰もが分かることでしょう。
そして、アルツハィマー型認知症においは、物忘れよりも先に匂いを感じる能力が低下することがあり、それが鍋を焦がしてしまう原因になっているの可能性も高いです。
味つけに関しては、例えばそれまで薄味だったのに濃い味付けになってきたといった変化が発生します。
手の込んだ本格料理を作らなったのを見て「ズボラになったのかな?」と楽観してはいけません。
必要な食材をそろえて効率良く調理を行う、という高度な判断をすることが困難になったためです。
仕事中のサイン
仕事中のサインというのは周囲の者、特に部下に多大な迷惑をかけてしまいます。
- 同じ質問や確認を繰り返す
- 新しい機器やソフトの使用方法を覚える気がない
- ネクタイを結べなくなる
同じ質問や確認を繰り返す原因は、単純に物忘れをするからです。
部下にしてみれば「報告しただろ」とイライラしてしまうものです。
新規のメカやアプリの使い方を覚える気が無くなるのは、記憶力や判断力などが落ちて、新たなことにトライする意欲が著しく低下しているからです。
それを補填する行為として部下に丸投げするのは目に見えているので、部下の負担増はまぬがれません。
そしてほぼ毎日、合計1万回以上は行ってきたはずのネクタイの絞め方がわからなくなるのは、軽度認知障害の重要なサィンだと断言できます。
日常生活のサイン
日常生活においても軽度認知障害(MCI)のサインを発しています。
- 洗濯物の干し忘れ
- 毎回楽しみにしていたテレビドラマを見なくなった
- 財布の中にやたらと小銭が増えるようになった
洗濯物を干し忘れるのは、洗濯中だということを完全に忘れてしまっているためです。
好きなTVドラマを見なくなるのは、興味がなくなったり無関心となったり、ストーリー展開についていけなくなったということが影響を及ぼしています。
財布に不必要なまでに小銭がたまるというのは、細かな計算が難しくなり、お札で払うようになるのが原因です。
これらのことは認知症でない健常な人にも多少は見られますが、軽度認知障害に進行してしまうとこのようなサインが急増し、時として肝心なことまで忘れて周囲に多大な迷惑を与えるという動向があるのです。
50代に入った頃には対策する必要がある
アルツハイマー型認知症の原因はアミロイドβたんぱくの蓄積、そしてアミロイドβたんぱくは認知症になる20年くらい前から少しずつ蓄積し始めると前述しました。
早い人だと70代で認知症が発症すると考えると、つまり50代からアミロイドβたんぱくが蓄積するという事になり、立派な予備軍ということです。
なので軽度認知障害(MCI)の症状を自覚してから対策を行うのではなく、できるだけ早く対策する事が必要となるでしょう。
今回述べたMCIの特徴が出てたとしても、周囲の人達は注意しづらいものです。
面と向かって「アルツハイマー」とは言えないですからね。
なのでしっかりと自覚し、自己啓発するという心がけが必要となるでしょう。